物との出会いもまた、一期一会

「一期一会」という言葉は、通常、人との出会いに使われます。しかし、私たちが日々使う「物」との出会いもまた、二度と巡ってこない貴重なご縁ではないでしょうか。

物にも魂が宿る

日本には古くから「付喪神（つくもがみ）」という考え方があります。長く大切に使われた道具には魂が宿るという思想です。現代の大量生産・大量消費の社会では忘れられがちですが、物には作り手の想いや、そこに至るまでの物語が込められています。

お気に入りのマグカップ、書き心地の良いペン、長年愛用している革財布。それらは単なる物質を超えて、私たちの生活を支え、心を豊かにしてくれるパートナーです。

ある晴れた休日、ふらりと立ち寄った骨董市でのことです。雑多に並べられた古道具の中に、一枚の小皿が目に留まりました。決して高価なものでも、有名な作家のものでもありません。しかし、その素朴な色合いと、手に馴染む歪な形に、なぜか心を奪われました。

店主によると、それは昭和初期に作られた無名の雑器だそうです。「誰かの食卓で、長い間大切に使われてきたんでしょうね」。その言葉を聞いた時、この皿が経てきた時間と、これから私が共に過ごす時間を思い、愛おしさが込み上げてきました。

何に惹かれ、何を大切にしたいと思うか。物選びの基準は、自分自身の価値観そのものです。流行りだから、皆が持っているからではなく、「これが好きだ」という直感に従って選んだ物は、長く良き相棒となってくれます。

断捨離やミニマリズムが流行していますが、それは単に物を減らすことだけが目的ではありません。自分にとって本当に必要なもの、心から大切にできるものを見極めるためのプロセスなのです。

出会いがあれば、別れもあります。壊れてしまったり、役目を終えたりした物たち。それらを手放す時、「今までありがとう」と感謝の気持ちを込めて送り出すことも、ご縁を大切にする一つの形です。

ゴミとして捨てるのではなく、リサイクルに出したり、必要としている誰かに譲ったり。物の命を次のご縁へと繋いでいくことも、私たちにできる責任ある態度ではないでしょうか。

あなたの周りを見渡してみてください。今、そこにある物たちは、数え切れないほどの偶然を経て、あなたの元へとやってきました。その一つ一つに物語があり、ご縁があります。

物との出会いも一期一会。そのご縁に感謝し、愛着を持って接することで、無機質な物質にも温かい命が吹き込まれます。そして、そんな物たちに囲まれた暮らしは、きっとあなたの心を穏やかで豊かなものにしてくれるはずです。